近年、競馬界では騎手のスマホ不正利用が話題となっています。SNSでもしばしばトレンドに上がるこのニュースですが、そもそもなぜ騎手がスマホの使用を禁止されているのか、気になる方も多いでしょう。
本記事では、騎手がスマホを使用できない理由を解説し、さらに過去の事例も合わせて紹介します。
なぜ競馬界では騎手のスマホ持ち込みが禁止されているのか
そもそも、なぜ騎手はスマホを持ち込むことが禁止されているのか、疑問に思う方もいるでしょう。まずは、騎手がスマホを持ち込むことができない理由について詳しくご説明します。
最大の目的は八百長を阻止するため
騎手がスマホを持ち込めない最大の理由は、八百長を防ぐためです。八百長とは、レースで事前に決めた通りに結果を作り出し、不正に利益を得る行為のことを指します。簡単に言うと、不正行為です。
もしもスマホを持ち込めるのであれば、レース前に騎手や調教師、オーナー間で勝敗を決めてしまうことが可能になります。その結果、勝ち馬や上位に来る馬を予測し、その馬券を買うだけで利益を得られるわけです。
八百長では、馬券購入者が勝ち馬を選んで、騎手はその指示通りにレースを進めます。騎手が全く関与していないケースもありますが、騎手が意図的に負けるように動くことで、レースの結果が事前の打ち合わせ通りになります。負けた騎手は、関係者に分け前を渡すことで八百長が成立してしまうのです。
このように、スマホがあれば八百長を仕組むことができてしまうため、競馬のレースではスマホの持ち込みが厳しく禁止されています。
スマホの持ち込みは競馬法違反に該当する
スマホの持ち込みは競馬法違反に該当しています。
スマホの違反に該当する項目は下記の通りです。
競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者(馬主、調教師、騎手、調教助手、騎手候補者又は 厩務員)
「スマホの持ち込み禁止」と明記されているわけではありませんが、スマホを持ち込むことは「競馬の公正確保に関する業務上の注意義務に違反」と見なされるため、持ち込みが行われると罰則の対象となります。
ちなみに、違反した場合の罰則は大きく分けて以下の3つです。
- 期間を定めて調教、もしくは騎乗の停止
- 戒告
- 50万円以下の過怠金
調整ルームに入るとスマホの持ち込みが禁止される
騎手はスマホの持ち込みが禁止されていますが、24時間365日スマホが使えないわけではありません。実際、SNSを利用している現役騎手もいるので、スマホが使用できないのはあくまで一定の期間に限られます。
その期間とは、「調整ルーム」に入ってから出るまでです。
調整ルームは、アスリートの体型を維持するための設備が整った施設で、食堂や娯楽室、サウナなども完備されています。また、外部の接触を断つことで、競技者としてのコンディションも保たれるため、調整ルームに入る際には通信機器を回収されます。これにより、スマホを持ち込むことができなくなります。
調整ルームはトレーニングセンターや各競馬場にも存在し、騎手は騎乗前日の21時までに調整ルームに入る必要があります。例えば、土日のレースに騎乗する場合、前日金曜日の21時から日曜日のレース終了後までスマホは使用できません。
レース終了後にはスマホが返却され、SNSを利用している騎手は日曜日の夜以降に最新の情報を更新しています。
競馬で過去に起きたスマホ持ち込み処分事件3選
騎手は一定期間スマホの持ち込みが制限されていますが、過去にはスマホを持ち込んだ事例も存在しました。ここでは、その中でも特に注目された3つの事件をご紹介します。
若手騎手6名がスマホ使用
最初にご紹介するのは、2023年4月23日に発覚した、若手騎手6名による競馬開催中のスマホ使用事件です。この事件では、下記の6名の騎手が競馬開催中の騎手控室でスマホを使用していたことが明らかになりました。(かっこ内は当時の年齢)
- 今村聖奈騎手(19)
- 古川奈穂騎手(22)
- 永島まなみ騎手(20)
- 角田大河騎手(19)
- 河原田奈々騎手(18)
- 小林美駒騎手(18)
いずれも若手騎手であったため、スマホを使用することで八百長に発展する可能性があることを認識していなかったのかもしれません。しかし、この事件はSNS上でも大きな話題となり、若手騎手のプロ意識の低さが批判されました。
事件が発覚した後、上記の6名の騎手には30日間の騎乗停止処分が科されました。
水沼騎手スマホ持ち込み事件
次に紹介するのは、2024年5月31日に発覚した水沼騎手のスマホ持ち込み事件です。
日本ダービーが開催された週、美浦トレーニングセンターおよび東京競馬場の調整ルームで、水沼元輝騎手(21)がスマホを持ち込み、使用していたことが判明しました。複数回にわたってスマホを使用し、飲食店の予約やインターネット、SNSの閲覧に利用していたことが確認されています。
さらに、調整ルームに入る際にはスマホが回収されることになっていますが、その際にスマホケースのみを預け、本体はそのまま持ち込むなど、悪質な偽装工作も行っていたことが明らかになりました。
先ほど紹介した若手騎手6名とは異なり、意図的に偽装工作を行っていたため、その悪質性が強く指摘され、約9ヶ月の騎乗停止処分が下されました。若手騎手が30日の騎乗停止処分を受けたのに対し、水沼騎手には9ヶ月という相当厳しい処分が科されました。しかし、偽装してまでスマホを持ち込んでいたことから、八百長の疑いがかけられるのは仕方なく、競馬の公平性を保つためにもこの処分は妥当だという意見がネット上では広がりました。
C.ルメール騎手ツイート事件
最後に紹介するのは、2015年2月27日に起きたC.ルメール騎手のスマホ持ち込み事件です。
ルメール騎手はフランス出身で、もともと短期免許を利用して騎乗していましたが、2015年にJRAの騎手免許試験に合格し、JRA専属騎手として通年騎乗を開始しました。
しかし、その年の2月27日、阪神競馬場の調整ルームでルメール騎手がスマホを利用していたという情報が裁定委員の耳に入りました。事情聴取を行ったところ、本人から事実確認が取れました。
ルメール騎手は調整ルームにスマホを持ち込んだ際、知人からTwitterでツイートを受け、その内容を2回リツイートしていたと報告されています。
このため、ルメール騎手には30日間の騎乗停止処分が下されました。奇しくもその事件は、ルメール騎手が通年デビューを果たす直前に起きたもので、通年デビューは翌月となりました。
その後、ルメール騎手は会見で謝罪し、以降は不祥事を起こすことはありませんでした。
競馬 スマホ 持ち込みのまとめ
今回は、なぜ騎手がスマホを持ち込んではいけないのかを簡単にまとめました。
スマホの持ち込み禁止は、八百長や不祥事を防ぐための措置です。競馬ファンが真剣に予想し、馬券を賭けている裏で、もし八百長が行われ不正な利益が得られたことが発覚すれば、競馬界の信頼が大きく損なわれます。また、ファン離れや競馬の売り上げ低迷にもつながるため、八百長は絶対に許されないのです。
そのため、スマホの持ち込みは禁止されています。今後、騎手をはじめとする競馬関係者がスマホの持ち込みを徹底的に避け、競馬界の公正を守り続けることを強く望みます。
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